妄想かもしれない

最近、気になっていることがある。

アパートの部屋にカーテンがかかっているということは、即ちそこには住人がいる、ということになる。
しかし、私の住まいに程近いアパートには、固くカーテンが閉ざされ、人の気配のほとんどない部屋がある。
最初からこうだったわけではない。半年ほど前だったろうか。引っ越し業者や、電気・水道関係の業者らしき人たちがその部屋に出入りしているのを見て、「ああ、だれか越してきたんだな」と思った。その後も何度か男性の姿を見かけたことはある。それも一人ではなく、少なくとも二、三人。一度、「おはようございます」と声をかけたが素通りされてしまった。愛想が無いというより、敢えて無視されたようで気分は良くなかった。
あまり気にとめていなかったが、数カ月に一度回ってくる区費徴収当番(田舎なので まだこんな制度が残っている)の際に、その部屋が「空き家」扱いになっているのを見て私は驚いた。そして俄然興味が湧いてきた。
なぜ人がいるのに「空き家」なのか?無愛想を通り越して近づき難かったあの男たちは何者なのか?


最初は、どこかの会社が社宅か独身寮の代替に借り上げたのかと考えた。しかしその割には生活感が無さ過ぎる。女の一人暮らしならともかく、洗濯物すら干してない。


次に思いついたのは、あれは警察の張り込みなのではないかということ。友人諸氏からはミステリの読みすぎだと苦笑されそうだが、まさにその通りだ。だがこれなら生活感の無さや複数の男の出入りにも説明がつくような気がするのだ。難点は四六時中カーテンが閉め切られていて、不自然この上ないことか。


最後に頭を過ぎったのは最悪の想像だった。近頃ニュースで孤独死が話題になっているが、あの部屋の中にはぽつりと死体が転がっているのではないだろうか。
部屋に住んでいたのは単身の男性で、出入りしていたのは引っ越しを手伝っていた友人か何か。仕事が違うなら、ひと月やふた月連絡をとらなくてもおかしくない。
一度その光景を想像してしまうと中々離れなくなる。あの部屋には死体が転がっている! いくら冬とはいえ、長く放置すれば見る陰無く朽ちてしまうだろう。ある日帰宅したらあのアパートの周辺にテレビでよく見る黄色い立入禁止のテープが張り巡らされているんじゃないか?


そんな妄想はもちろん誰にも話してこなかった。話すつもりもなかった。しかしブロック会議で世間話のように孤独死の話題が出たのでふと口に出してしまったら、良識派の方々からは一笑に付されてしまった。ずいぶん首を突っ込むねえとからかわれて恥ずかしくなった。まさかそんなことありえませんよねと笑って忘れようと思った。所詮は他人のことだ。


そしてその日の帰り道、あのアパートをふと見ると、電気が着いている! しかも薄く窓まで開いていた。篭った臭いを逃がしているのだろうか。しかし警察等の姿はない。駐車場には業者らしき大きなバンが停まっていた。その車は夜遅くまで何度か出入りを繰り返し、朝には、あの怪しく閉め切られていた窓からもカーテンが取り払われていたので、私は安心した、というよりは肩透かしを食ったような気がした。
これであの部屋の住人の情報は無くなった。本当は、どんなひとがどんな事情で住まっていたのか?
わからなくなっても、宙ぶらりんの私の妄想は続いている。あの部屋の中では、一体何が行われていたのか?

妙案が閃いたら、またこうしてご披露する日が来るかもしれない。
それでは皆様、ごきげんよう